連続講座「世界文学への誘い ~愛について~」(全5回)
2025.09.21~11.02
「人間は、謎である」とは、ロシアの文豪ドストエフスキーの言葉。その謎の奥底で蠢くもの、それこそが「愛」。喜びの泉であると同時に、時に人を蝕む毒。その解きがたい謎に迫ろうと、古今東西を問わず、世界の作家や詩人たちは、無数の「愛の姿」を描いてきました。本講座では、日本を代表する外国文学研究の第一人者たちが、翻訳者ならではの鋭敏なセンスを手がかりに、スフィンクスのごとく黙する「人間という謎」に、言葉の限りを尽くして迫ります。(世田谷文学館館長 亀山郁夫)
【開催日程】
第1回9/21(日) 第2回10/19(日) 第3回10/25(土) 第4回11/1(土) 第5回11/2(日)
【開催時間】14:00~15:30(開場は13:30)
【会場】世田谷文学館1階文学サロン
【対象】一般
【定員】当日先着80名(直接会場へお越しください)
【参加費】500円(当日、現金でご用意ください)
世界文学への誘い 第1回 9月21日(日)
恋の矢は永遠に飛び続ける ― ロシア文学における愛の変奏
講師:沼野充義(ロシア東欧文学研究者、東京大学・名古屋外国語大学名誉教授)
ロシアでは19世紀から20世紀にかけて様々な愛の形が受け継がれ、変奏されてきました。プーシキン、トルストイ、チェーホフ、ナボコフという四人の作家に即してその跡を辿り、ロシア文学の古典の豊穣な世界に浸っていただきたいと思います。
沼野充義(ぬまの みつよし)1954年生まれ。ロシア東欧文学研究者、文芸評論家、東京大学・名古屋外国語大学名誉教授。ロシア東欧文学・現代文芸論。著書『チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』、『徹夜の塊1 亡命文学論』(サントリー学芸賞)、『徹夜の塊2 ユートピア文学論』(読売文学賞)、『徹夜の塊3 世界文学論』、『ロシア文学を学びにアメリカへ?』他、共編書『ロシア文化事典』、訳書にナボコフ『賜物』、『新訳 チェーホフ短篇集』、ブロツキー『レス・ザン・ワン』(共訳)、シンボルスカ『終わりと始まり』などがある。
世界文学への誘い 第2回 10月19日(日)
現代中国百年の恋人たち ― 魯迅「愛と死」と張愛玲「傾城の恋」そして莫言『酒国』
講師:藤井省三(東京大学名誉教授、名古屋外国語大学教授)
中国文学この百年のテーマは、恋愛と革命・戦争でした。現代文学の“父”魯迅(ルーシュン、ろじん、1881-1936)と“長姉”張愛玲(チャン・アイリン、ちょうあいれい、1920-95)、そして2012年ノーベル賞受賞者の莫言(モーイエン、ばくげん、1955-)が描いて来た社会改革・世界戦争の中の恋人たちの系譜をお話しいたします。
藤井省三(ふじい しょうぞう)1952年生まれ、東京大学名誉教授、名古屋外国語大学教授、海外では南京大学海外人文資深教授などを務める。専門分野は現代中国大陸・香港・台湾の文学と映画。著書に『中国語圏文学史』『魯迅と日本文学』(共に東大出版会)、『魯迅と世界文学』『21世紀の中国映画』(共に東方書店)、『村上春樹と魯迅そして中国』(早稲田新書)など、訳書に魯迅『故郷/阿Q正伝』『酒楼にて/非攻』、張愛玲『傾城の恋/封鎖』(共に光文社古典新訳文庫)、莫言『酒国』(岩波書店)、李昂『海峡を渡る幽霊』(白水社)『眠れる美男』(文藝春秋)などがある。
世界文学への誘い 第3回 10月25日(土)
詩と小説のあいだに宿る〈愛の力〉
講師:野谷文昭(翻訳家、東京大学名誉教授)
ラテンアメリカは詩人の宝庫です。ノーベル賞詩人P・ネルーダ、G・ミストラルらの詩を、詩の朗読(朗読家・長浜奈津子)と解説で味わい、現代に響くその魅力を探ります。そして、ガルシア=マルケスの小説を詩的に読むことを試みます。
野谷文昭(のやふみあき)1948年生まれ。翻訳家・東京大学名誉教授。著書に『ラテンアメリカン・ラプソディ』(五柳書院)、編訳書に『20世紀ラテンアメリカ短篇選』(岩波書店)、訳書にガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』(新潮社)、ボルヘス『七つの夜』(岩波書店)、バルガス=リョサ『ケルト人の夢』(岩波書店・日本翻訳文化賞受賞作品)、オクタビオ・パス『鷲か太陽か?』(岩波書店)などがある。
ゲスト:長浜奈津子(女優、朗読家)
長浜奈津子(ながはまなつこ)桐朋学園短大芸術・演劇専攻科卒業後、劇団俳優座へ。「砂の本」「ブエノスアイレスの熱情」他、ホルヘ・ルイス・ボルヘス詩を朗読。南米吟遊詩人ユパンキやビオレータ・パラなど、詩と音楽の語りと歌も。2016年より「市川荷風忌」出演。ヴァイオリニスト喜多直毅氏との“おとがたり”で荷風作品を多数上演。六本木ストライプハウス「朗読空間~ひとり語り」では泉鏡花『高野聖』、坂口安吾『桜の森の満開の下』等を朗読している。
世界文学への誘い 第4回 11月1日(土)
複数のアフリカ ─ マッチョなアフリカに「愛は来る」か?
講師:くぼたのぞみ(翻訳家、詩人)
これまでに訳してきた南アフリカ出身のノーベル賞作家J・M・クッツェーと、ナイジェリア出身のチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの作品を中心に、他にも訳してきた作家や詩人にも触れながら、「アフリカン文学」は一つに括れるものではなく、とても多様で、多彩であることをお話しできればと思います。
くぼたのぞみ 子育て中の30代初めに北米のアフリカン・アメリカン女性の作品と出会い、「翻訳とアフリカン」をテーマとするようになる。以来、さまざまなアフリカ発/アフリカ系の作家や詩人の作品を翻訳しながら、植民地主義とジェンダーと言語の問題などを考えてきた。主な著書に『J・M・クッツェーと真実』(読売文学賞受賞)、『山羊と水葬』、『曇る眼鏡を拭きながら』(共著)があり、訳書に本邦初訳となったJ・M・クッツェー『マイケル・K』『鉄の時代』『サマータイム、青年時代、少年時代──辺境からの三つの<自伝>』、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』『なにかが首のまわりに』、カリブ海地域出身のマリーズ・コンデの自伝『心は泣いたり笑ったり』などがある。
世界文学への誘い 第5回 11月2日(日)
愛、この酷薄なるもの わたしが出会った世界の十の愛の小説、愛の詩
講師:亀山郁夫(世田谷文学館館長、ロシア文学者)
私の文学人生は、ドストエフスキー『罪と罰』との出会いから始まりました。以来、77歳の「今」にいたるまで、おびただしい数の愛の小説、愛の詩と出会ってきました。今回の講演では、私の人生にとくに印象に残る十の作品を取り上げ、人間とは、自分とは、そして愛とは何か、について考察します。取り上げるのは、漱石『こころ』、ジッド『田園交響曲』、ドストエフスキー『悪霊』、太宰治『人間失格』ほか六編です。
亀山郁夫(かめやまいくお)1949年生まれ。ロシア文学者。名古屋外国語大学学長、日本ドストエフスキー協会会長、日本藝術院会員。東京外国語大学外国語学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。『破滅のマヤコフスキー』(筑摩書房)で木村彰一賞、『磔のロシア―スターリンと芸術家たち』(岩波書店)で大佛次郎賞、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』全5巻(光文社)で毎日出版文化賞特別賞とプーシキン賞、『謎解き「悪霊」』(新潮社)で読売文学賞を受賞。著書に『ドストエフスキー 父殺しの文学』(NHKブックス)『新カラマーゾフの兄弟』(河出書房新社)、近著に『人生百年の教養』(講談社)、対談集『ショスタコーヴィチを語る』(青土社 2025)、訳書にドストエフスキー『罪と罰』『悪霊』『白痴』『未成年』(光文社)などがある。