本と輪 この3冊津田淳子さん(編集者)が選ぶ造本・装丁がおもしろい本3冊

本と輪 この3冊

津田淳子さん(編集者)が選ぶ

造本・装丁がおもしろい本3冊

2021年1月22日

津田淳子(編集者)

1974年、神奈川県生まれ。編集プロダクション、出版社を経て、2005年にグラフィック社入社。2007年、印刷や加工について技術中心の情報を提供する『デザインのひきだし』を創刊。デザイン、印刷、紙、加工に傾倒し、それらに関する書籍を日々編集中。

1
『書斎の岳人』 小島烏水

なんだかガサガサして古ぼけたこの本、ちょっと信じられない素材でつくられています。本の背から表紙にかけて使われている茶色っぽい素材、実はこれ「ミノムシの巣」なのです。巣を開いて外側の木や草部分を取り去り、内側のスエードのような部分だけにして、それをパッチワークしてシート状にしたもの。この本の発行部数は980部。1冊に30匹ほどの巣が使われているので、全部でなんと2万9000以上の巣を集めてつくられたんですね。装丁を手がけた斎藤昌三は、このミノムシの巣を集めるのに苦労して、2ヶ月もかかったとの記述が本文にあります。なんともすごいことを考えて実行したものです。(書物展望社/1933年/装丁:斎藤昌三)

2
『第八随筆集 新富町多與里』 斎藤昌三

今回の選書であげた『書斎の岳人』も本書も、どちらも明治の終わりから昭和30年代まで活躍した古書研究家であり、その研究や蒐集などから「書痴」と呼ばれた斎藤昌三という人が装丁しています。斎藤は、昭和始めころに続々と出された、機械による大量生産の書籍(これも今から見ると函入り上製本で立派なのですが)などの簡易なつくりに反対し、自分で装丁するものはこれでもかと凝ったものをつくっていました。自著でもあるこの本は、当時の印刷・活版印刷で使われた紙型(しけい/活字を型取りしたもので、ここに鉛を流し込んで版をつくる)をそのまま切って表紙に貼り付けるという、手間のかかった仕様になっています。(芋小屋山房/1950年/装丁:斎藤昌三)

3
『どうぶつぶつ』 文:リリー・フランキー 写真:たちばなれんじ

すべて目線バッチリなさまざまな動物写真。そしてその動物たちがユーモア溢れるコメントを「ぶつぶつ」言っている写真集です。こんなユニークな構成をそのまま、本のかたちに落とし込んでいるのが秀逸。動物たちのつぶやきは、すべて吹き出しのかたちに型抜かれた紙に入れられ、写真の間に綴じ込まれています。何千部と量産される本は機械で製造できる仕組みにする必要があり、でも一見では手作業でしかつくれない本に見えます。印刷や製本のことを知れば知るほど、この本のつくりに驚く1冊なのです。(パルコ/2012年/装丁:大島依提亜)

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.2 2018.3

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