本と輪 この3冊柴門ふみさん(漫画家、エッセイスト)が選ぶ安西水丸といえば、思い出す3冊

本と輪 この3冊

柴門ふみさん(漫画家、エッセイスト)が選ぶ

安西水丸といえば、思い出す3冊

2021年5月7日

柴門ふみ(漫画家、エッセイスト)

1957年徳島県生まれ。1979年『クモ男フンばる!』でデビュー。1983年 『P.S. 元気です、俊平』で第7回講談社漫画賞受賞。1992年『家族の食卓』、『あすなろ白書』で第37回小学館漫画賞受賞。『同・級・生』、『東京ラブストーリー』、『恋する母たち』など多数の作品がドラマ化され話題となる。エッセイ集に『恋愛論』『ぶつぞう入門』などがある。

1
『青の時代』 安西水丸

鄙びた海辺の町で母と姉と暮らした少年期から、絵描きを志し上京するまでの短編を収めた、作者の自伝的漫画集。漁師町の荒々しい男たちに馴染めない孤独を、すっとぼけたユーモアにくるんで距離をとる、少年の繊細さと哀しみ。ここに、安西水丸の真骨頂がある。青年期を描いた『魚の家』と『自転車』は、今まで読んだ数多の青春漫画の中でトップツーであると断言できるほど、私のお気に入りである。海辺でも、都会の町でも、彼の絵の中にはいつも乾いた風が吹いている。

2
『平成版 普通の人』 安西水丸

自分を「普通」と思っている人が実は結構「変」で、しかも大真面目に「変」をやり通している。そのおかしさを、ヘタウマ絵のコマ割り漫画として表現することで、とんでもない傑作となっている。「平成版」を読むと平成の初めに確かにこういう人たちがいたなあと、懐かしく思い出し笑いできる。折り紙作家を目指す「いち子」というキャラクターが秀逸で、彼女を主人公にした漫画をもっと読んでみたかった。

3
『a day in the life』 安西水丸

水丸さんのファンには、たまらない本だろう。亡くなってから出版されたこの本には、水丸さんのチェックが入っていない。連載された文には、何度も重複する話が出てくるけれども、それがかえって肉声を聴いているようだ。暮らしを楽しむ、水丸さんの気持が、歌のくり返しのように聴こえる。こういう人だったんだなあと解る本だ。

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.9 2021.4

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