南伸坊さん(イラストレーター、エッセイスト)が選ぶ
水丸さんの素晴しさがわかる3冊
2021年5月14日
南伸坊(イラストレーター、エッセイスト)
1947年東京都生まれ。漫画雑誌『ガロ』の編集長を7年間務め、1979年よりフリーランスとして活動を開始する。有名人に扮装する「本人術」などでも人気を博す。1981年、パフォーマンス集団「HAND-JOE」を結成。任天堂のゲームソフト『MOTHER』のキャラクターデザインも手がけるなど、様々なフィールドで活動。著書に『私のイラストレーション史』『ねこはい』ほか多数。
水丸さんの静物画は、水丸さんが発明した新しいジャンルであったと思う。雑貨趣味やインテリアデザインのセンスや、ナイーブアートの味に、ポップアートのエスプリ。机の上にあるスティック糊のプリットや、ニベアのスキンミルクや、コカコーラのマッチブックスが、絵になっている。この本は水丸さんの魅力のスピリットだ。
和田誠さんと水丸さんで、コラボの展覧会が続いて、とても洒落ていて楽しい展覧会だった。『NO IDEA』におさめられたイラストレーションは、おそらく和田さんがワザと水丸さんに近づけて、どっちが描いたのか、わからなくするっていうイタズラを仕掛けている。水丸さんの絵には、そういうことをしたくなる魅力があった。
水丸さんのファンには、たまらない本だろう。亡くなってから出版されたこの本には、水丸さんのチェックが入っていない。連載された文には、何度も重複する話が出てくるけれども、それがかえって肉声を聴いているようだ。暮らしを楽しむ、水丸さんの気持が、歌のくり返しのように聴こえる。こういう人だったんだなあと解る本だ。