綿矢りささん(小説家)が選ぶ
安西さん、この3冊
2021年5月21日
綿矢りさ(小説家)
1984年京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞受賞。早稲田大学在学中の2004年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。2012年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。ほかの著書に『ひらいて』『夢を与える』『勝手にふるえてろ』『憤死』『大地のゲーム』『手のひらの京』『意識のリボン』などがある。『私をくいとめて』は2020年末に映画化された。
長い間子どもたちがよく読んでくれてるんだ、と安西さんがうれしそうにおっしゃっていたのを覚えている一冊。自分に子どもができたとき、その言葉を思い出して読み聞かせしたら、息子はまんまるい目でじっと安西さんの絵を見て、リズム感の良い文章も覚えて口ずさむようになった。そのとき"安西さんは、子どもの気持ち、それもまだほとんどしゃべれない赤ちゃんぐらいの子どもの気持ちが分かるんだな"と知り、驚いた。子どものころの気持ちを忘れたくない、と思うことは多いけど、本当に忘れずにいられるのはうらやましい。
本の外観、安西さんのイラストと村上さんの文章の相性の良さ、絶妙な力の抜け具合を楽しめるシリーズ。読者からの、ときにはフシギな感じの質問にも、ちょっと困りつつもユーモラスに答えてくれる村上さんの文章と、なんだか明るい風通しの良い安西さんのイラストに、心がほぐれる。絶妙な"詰め込みすぎずに、どこか抜く"を気楽に楽しめる。
安西さんの俳句とその俳句に合ったイラストを同時に楽しめる一冊。安西さんの俳句はイラストとはまた違う味わいで、ビターな大人の心情や、硬派な視線の切り取りを伝えるものも多い。彩り鮮やかなイラストは見るとまず心が躍るけど、ずっと見てるとどこかドライな印象も受ける。そのドライさが俳句ではより濃くなってる気がする。イラストと共に印象に残っている句は「古伊万里の青き景色に栗を盛る」。