本と輪 この3冊長谷川町蔵さん(著述家)が選ぶ映画監督が書いた本3冊

本と輪 この3冊

長谷川町蔵さん(著述家)が選ぶ

映画監督が書いた本3冊

2021年7月16日

長谷川町蔵(著述家)

1968年、東京都生まれ。90年代末からライターとして活動。映画、音楽、文学などについて幅広く執筆し、なかでもアメリカのポップ・カルチャーを得意分野とする。著書に『文化系のためのヒップホップ入門』(共著・大和田俊之)、『21世紀アメリカの喜劇人』、『あたしたちの未来はきっと』など多数。

1
『ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話』 キャメロン・クロウ

映画監督のキャメロン・クロウが、尊敬してやまない巨匠ビルー・ワイルダーに対して1998年に行ったロング・インタビューをまとめた本。ワイルダーはクロウの『ザ・エージェント』を気に入ってオファーを受けたそうだけど、脚本や演出についてのノウハウを惜しみなく語る姿は、まるで老教師が人生の最後に出会った愛弟子に対して行なうマンツーマンの授業のようだ。事実、クロウはこの後ワイルダーの代表作『アパートの鍵貸します』の方程式を自作『あの頃ペニー・レインと』に応用して大傑作に仕上げるのだった。

2
『クラックポット―ジョン・ウォーターズの偏愛エッセイ』 ジョン・ウォーターズ

悪名高いカルト監督が1987年に発表したエッセイ集。ナショナル・エンクワイアラー(アメリカの東スポ)やピア・ザドーラ(元祖セレビッチ)を賛美する一方で、ベルイマンやゴダールのアート作品を観ることを「恥ずかしい」と言い切る独特の美意識が炸裂している。子ども時代に故郷のボルチモアでローカル放送されていたダンス番組「バディ・ディーン・ショウ」について甘酸っぱく振り返った「ナイセスト・キッズ・イン・ザ・タウン」は、後年ミュージカル版も製作された代表作『ヘアスプレー』の事実上の原作だ。

3
『オイスター・ボーイの憂鬱な死』 ティム・バートン

ティム・バートンが現在のような大監督になる前の1997年に発表した本。自らが発案した奇怪なキャラクターを主人公にしたショートストーリーが23編収められている。そのほとんどは悲惨なバッドエンドなのだけど、バートンは明らかに彼らの心情に寄り添って書いており、そこが素晴らしい。本人の手によるイラストもキュートかつキモくて最高だ。バートンの監督作のデッサン集としても読むことができ、事実「ジミー、みにくいペンギンのこ」は『バットマン リターンズ』の悪役ペンギンのプロトタイプのように見える。

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.2 2018.3

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