朝吹真理子さん(小説家)に聞いた
じっくり読みたい本3冊
2021年8月6日
朝吹真理子(小説家)
1984年、東京生まれ。2009年、「流跡」を文芸誌「新潮」に発表。同作で堀江敏幸氏選考によるドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、『きことわ』で芥川賞受賞。2018年6月、7年ぶりの新作長篇小説『TIMELESS』を刊行。同年7月、国立新美術館でのエルメス展「彼女と。」に寄せて、掌篇小説集「彼女と」を発表。著書に『抽斗のなかの海』『だいちょうことばめぐり』など。
こどものころとにかく目の前のすべてが謎だらけだった。「なんで?」と人にきいて、納得したこたえがきたことなど、たぶんない。小学生のころ、父の書棚にあったこの本をひきぬいて、読んだのをおぼえている。
空はなぜ青いのか、棒を振るとヒュッと音がするのはなぜ、など、伊丹十三が、ふだんはわかったようにしておいてその実大人もまったく明瞭に説明できない科学の話を、研究者の知見をふまえたうえで、こたえてゆく。読み心地、じつに軽妙。読み終えたあと、問いかけにきちんとこたえられるようになるかはべつですが…。
私たちは、どこで育った食べものを、どんなふうにこしらえて、くちにしているか。本を閉じながら考えてしまう一冊。自然災害の多い国で農作物をつくってきたことを実感する。ときおり登場する天草ことばが心地よい。ゆったりした文章なので、慌ただしい日に読むと、ほっとする。薬湯のにおい、湯気、おすしの酸っぱい味、よく煎ったごまをもちいる白和え、どの景色も食べものも、清潔でおいしそう。
ちいさいころに関心をもったけれど、名前だけ知っていて、いまだに内容をあまりわかっていない、世界七不思議。いずれも紀元前にあった、アレキサンドリアの大灯台、バビロンの空中庭園などを、丁寧に、学術的に記載している。大型本なのでイラストが非常に緻密で、ながめているだけでも楽しい。