本と輪 この3冊ほしよりこさん(漫画家)に聞いたわたしを支えた思い出の本3冊

本と輪 この3冊

ほしよりこさん(漫画家)に聞いた

わたしを支えた思い出の本3冊

2022年3月24日

ほしよりこ(漫画家)

1974年生まれ。関西在住。2003年7月より、「きょうの猫村さん」をネット上で毎日1コマ更新。2005年に『きょうの猫村さん 1』(マガジンハウス)を出版して、日本中の老若男女を虜に。2015年には、『逢沢りく』(文藝春秋)で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。著書に、『きょうの猫村さん』『カーサの猫村さん』シリーズのほか、『僕とポーク』『B&D』(マガジンハウス)、『山とそば』(新潮社)などがある。

1
『十七歳―1964春』『十七歳―1964秋』 ボブ・グリーン

高校2年生の頃に図書館でたくさんの本と出会いました。本を返却するときまた新しい本に出会い、その頃アメリカの翻訳本の文体に惹かれて小説やコラムをたくさん読んだと思います。ボブ・グリーンのこの本はまさに自分が十七歳の頃に出会い小説や物語を読むように夢中になって読んだ彼自身の十七歳の日記です。1964年の1年間はその後の歴史を見てもインパクトのある出来事がたくさんあった年です。変わりゆく世界の臨場感と個人の日々が鮮やかに描き出された上下巻は読み終わるのが寂しくなるような本でした。これを読んで私も日記をつけ始めました。

2
『赤毛のアン・シリーズ 1〜10』 ルーシー・モード・モンゴメリ 訳:村岡花子

幼稚園の頃、日曜日の朝のテレビアニメで放映されていたのが「赤毛のアン」との最初の出会いでした。アニメはとても良くできていて、カナダの島の美しい風景や美味しい食べ物描写、少女たちの成長に目が釘付けになったものです。10代の後半で「赤毛のアン」には続きがあることを知り、全10巻を夢中になって読みました。村岡花子さんの翻訳は絶妙に登場人物の体温や声音を伝えてくれたと思います。特にマシューの「そうさなぁ」という言い回しは彼の優しさとのどかさが柔らかく心に響くのです。少女から大人へ、教育者として働きやがて母になる一人の女性の生き方が鮮やかに描かれています。

3
『虚構の家』 曽野綾子

この本を読んだのは中学生の頃でした。家にたまたまあったのですが、漢字がわからない部分が多いながら、夢中で読み進めました。その当時まで読んでいた小説や物語とは全く違う温度、人間関係、物語の進み方。たくさんの疑問を抱えたまま、それでも先が気になって読み進めずにはおられない、この不思議な小説の乾いた世界。社会の価値観の置き方や学校での不条理に気づき葛藤し始めていた自分にはこの本を読んで自分が見ている世界の新しいレイヤーを知った気がしました。

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.3 2018.10

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