多摩美術大学・世田谷文学館 共同研究 『清水邦夫の劇世界を探る』第5弾
2015.11.21
1. リーディングシアター(朗読劇)
『昨日はもっと美しかった―某地方巡査と息子にまつわる挿話―』
[演出]
庄山晃
[出演]
萩原朔美、大島宇三郎、つかもと景子、德永芳子、谷川清美、鈴木もも
[あらすじと解説]
この共同研究も回を重ねて5年目。いよいよ清水邦夫の劇世界への核心に迫るべく、今回は限りなく自伝に近い戯曲を取り上げた。『某地方巡査の息子にまつわる挿話』の副題が物語るように、清水氏の生まれ育った家庭環境そのものがベースとなっている。駅前交番に咲いた若き巡査と女学生のロマンスは、まだ恋愛結婚そのものが珍しがられた時代で、当時の地方紙にすっぱ抜き記事となったのは事実のようだ。劇中における細かな人物描写は別として、両親をこのエピソードをそのまま背負わせて登場させ、3人の子供たちと署長の娘マスヨが主たる登場人物で進行する。ただし、行方不明の弟は登場せず、兄の追想によって喋ったりする特異な設定が施されている。その弟が失踪宣言を受けて7年を経過した夜、身内だけの通夜が営まれた。その夜に残された一枚のセピア色の記念写真から家族のエピソードが伝えられる。
清水氏は3人兄弟の末っ子であったから、この劇では妹にあたる存在だろうが、単純にはそう考えるのは早計だろう。ともあれ、虚と実が巧みに入り組み、そしてストーリーも逆転を重ね、主題が大きく変容してゆくのが、当時の前衛としての清水戯曲の魅力であった。同時にリアリズム一辺倒であった伝統的な作劇術を明らかに変革した劇作家として高く評価され今日に至っている。
故郷の町に駐留した軍隊が極秘裏に作らせた猛毒のホスゲンは、サリン同様ほんの小瓶であっても2~3百人の命を奪ってしまう毒ガスだったようで、これは同氏の他の著作でもしばしば引用されている。その殺傷力という点では、清水氏の実家の庭のカンナの花の根元には、ホスゲンならぬ日本刀、それも筑前の名工『是次』の作になる銘刀が埋められていたようだ。この秘話こそは事実であり、駅前交番のロマンス同様、自らの実人生も換骨奪胎して作品へと昇華させてしまう作家魂のなせる業に驚かざるを得ない。
(公演チラシより)
2. 記念講演
『清水戯曲の魅力』
[講師]
井上理恵(桐朋学園芸術短期大学教授)
2015年11月21日(土)14:00~
1階文学サロン
無料
座席数が限られております。確実に座席を確保されたい方は電話でご予約ください。 TEL/世田谷文学館 03-5374-9111(休館日を除く10:00~18:00)